夕暮れの槍ヶ岳遠望

北アルプスを遠望できる台地から、夕暮れの景色を眺めていた。
太陽が沈み、残照が空の雲を染めると、それまで見えていた北アルプスの連山の手前の山々が、北アルプスの連山のシルエットの中に飲み込まれてしまい同化してしまった。良く見ればまだ各々の山も見えなくはないが、どちらかといえば、ただうすい紺色の一枚の山影に変わってしまった。
もっと手前の山影もシルエット状には見えるが、樹木の緑色のせいなのか、光の加減なのか濃い緑色に黒を混ぜたような色合いになり、やがて時間とともにどちらの山影も一体化して暗い闇になるのだろう。

ただ、空と地を分けている北アルプス連山の稜線を縁取るシルエット、そして空に向かって聳え立つ槍ヶ岳はずっとそのまま見えているのではないだろうか。

“槍ヶ岳” 天衝く穂先がシンボルのこの山は、登山を志す者の憧れ的な存在の山だろう。 

槍ヶ岳へ最初に登ったのは、夏山合宿の時だった。
北アルプスの「裏銀座コース」と言われる雲上のプロムナードの終点に聳え立つ槍ヶ岳。ここへの道は最高の景色を眺めながらいくルートだ。

長野県の信濃大町から、高瀬ダムへ、そこから北アルプスの三大急登と呼ばれるブナ立て尾根を登り、烏帽子岳、野口五郎岳、水晶岳、鷲羽岳、黒部五郎岳、三俣蓮華岳、双六岳、縦走の最後に槍ヶ岳が待っている。

何日か歩いた後に、槍ヶ岳直下に着いたが、ずっと縦走路から見てきた綺麗な三角錐の山は、少し期待しすぎであった。人々がアリの行列のように山頂に向かい、別の下りルートも同じ光景が見えたからだ。
しかし、登ってみなければ何ともいえない。

自分もアリの一員となり槍ヶ岳山頂に立ってみれば、この日まで歩いて来た西鎌尾根が長く延び、アルプスのパノラマを楽しめる表銀座コースが延びる東鎌尾根。
頂上の北側直下には小槍が角のように出て、その先は新田次郎の「孤高の人」で知られる加藤文太郎の遭難の地となった北鎌尾根が、他の尾根より峻険な様子を見せていた。さらに南岳から大キレット北穂高岳へ続く尾根。
それぞれの尾根は、まるで槍ヶ岳の根のように四方に延びている。

自分としての槍ヶ岳は、槍の穂の直下で見上げても、ただの岩の塊にしか見えないが、各々の尾根道を辿ってくる道程から見ると、やはり「登山を志す者の憧れ的な存在の山」であると感じる。素晴らしく美しい山だ。

もう登ることは無いだろう槍ヶ岳。信州のちょっとした所から遠望すれば空に突き出した槍の穂はどこからも、その形から槍ヶ岳だと分かるだろう。
また、少し違った姿の槍ヶ岳も描いてみたいものだ。

 Dusk of Mt.Yarigatake.2015 12 July.

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