八月の森へ…道中記  

今夏の天気は変動が大きかった。6月は涼しく、7月に入った途端に暑い日々が始まり、真夏日、猛暑日、熱帯夜がこれでもか これでもかと続き、月が替わっても・・・と、そんな夏を暑かった都会で過ごし、ようやく少し時間がとれたので一息入れに涼しい所へ行ってみようと出かけた、八月の飯綱。
でも、皮肉なことに、ちょうど出かける日から天候が変わり始め、今までの暑さは嘘のように、朝の気温は23℃と過ごしやすい。これでは高原では寒いかもしれない。高速道路を走り始めると、雨粒が落ちてきた。
それでも、峠を越えれば天気は良くなるだろうと、気を取り直して走る。今回は、奥方のリクエストで志賀高原経由で行くことになっていたので、横川を過ぎ碓井・軽井沢ICで一般道へおりて軽井沢へ向かった。
この辺りでも天気はあまり良くない。霧が出ていた。かなり濃い霧が急に前方の視界を遮ったりする。気温は22℃。窓を開けっ放しで走るにはちょっと涼しすぎた。軽井沢から中軽井沢を走りぬけ、浅間山の裾野をグルッと回るように走り、嬬恋村・草津温泉へ向かい、その後白根山、横手山を通る志賀草津高原ルートを行く。
浅間山の裾野辺りからは、雨が降り出した。この辺りから嬬恋村・長野原町を流れる吾妻川付近までは、どんどん下る。下るに従い、天気は幾分もちなおしてきて、雲の切れ間から青空が覗いたり、これから向かう草津温泉側の山々が墨絵の様に浮かび上がって見えた。

春は、にぎやかだった鳥たちも、今は静かだ。この森に居ついているのか、相変わらずウグイスの気配だけはする。時々チッチッチッチッと笹鳴きが聞こえる。あの春の歌声は聞こえない。森の中でじっと枝を見つめていると、結構動き回る小鳥の姿は確認できるのだが、葉陰で動き回る小鳥の同定は難しい。時折日当たりのいい場所に姿を見せる鳥もいる。キビタキのメスはこの時期に良く見かける。春はオスの鮮やかな姿ばかりが目についていたが、今は姿が見えない。鳴き声は時々聞こえてくるが…。

毎回ゴジュウカラを見かける木を見ていたら、鳥影が見える。双眼鏡で良く見れば、ゴジュウカラがこれも静かに枝を動き回っていた。これも静かだ。春先からフィーフィーとうるさく一日中でも鳴いていたのに・・・。
コサメビタキの姿も見えた。もうそろそろ渡りが始まるのだろうが、皆、静かに栄養補給をして渡りにそなえているのだろうか。

やがて、高原道路を上り詰めると、そこは白根山直下だ。
見れば白根山の火口跡に、美しく幻想的なエメラルドグリーンの水をたたえる神秘的な火山湖を見ようとする人たちの行列が続いていた。
以前に、その旧火口の周囲をグルッと回った事も、火口を覗きに行ったことも何回もあるし、天気も悪い。それより先に今日の目的はあったので、ここはパスした。

吾妻川沿いの国道144号線に出て、しばらく中之条方面へ走る。この谷あいの集落は、狭い所に川、道路、鉄道が集まったところだ。やがて草津温泉・白根山方面の案内板見えたので、それに従って左折し、また山道を登り始めた。

少しの間、良かった天気も山間に入り再び雨が降り出した。もう、何年前になるのか、この道は何回も通り草津温泉やその先へ行っているので、大体解っている道だ。雨の草津温泉街を通り抜け、スキー場へ来ると、ここからは本格的に白根山へ登る山岳道路だ。何曲がりかしながら登っていくと樹林帯が終わり草つきの山になり、辺りからゆで卵のような硫黄の臭いがしてくる。この辺りには亜硫酸ガスが漂っているのだろう。

道路は高度を上げていくにつれて、天気が回復してきた。雲の動きは速いが、真っ青な夏空が綺麗だ。相変わらず霧が出たり晴れたりしている。道路脇の展望台に車を止めて眺めると、笹原の中に一筋の道路が通り、その笹原には短い夏を惜しむように幾種類かの色とりどりの花が咲いていた。

白根山から少しくだり気味に進むと、万座温泉への道と別れ、横手山の裾野へ向かって少しずつ登っていく。この辺りは、車道とは別の遊歩道があるはずで、中学の時に遠足だったと思うが志賀高原から万座温泉まで歩いた事があった。

道路は、山田峠へ差し掛かる。ここを下れば山田温泉へ行く。霧はますます濃くなってきて10mも視界が利かない。そんな中を進むと日本の国道最高所の渋峠2,172mだ。碑が建っていたが、霧で周囲が見えないのでここも通過。

すぐ先に、横手山へ上がるロープウエイの乗り場が見えてきた。”のぞき”だ、一休み。ここでは霧は濃いものの雨は止んでいたが寒い。気温は13℃だ。この辺りは、晴れていればすばらしい展望台のはずだ。遠くは北アルプスが全山、近くは善光寺平から北信五岳が見えるはずだが、乳白色に包まれて何も見えない。

ここ”のぞき”からは、横手山の中腹を横切るようにして志賀へ向かってどんどん高度を下る一方だ。
硯川、熊の湯入り口まで下りてきた。気温は17℃まで上がった。

今回、志賀高原を通る目的は、この硯川、熊の湯入り口辺りから木戸池にかけての辺りにあるはずの?、奥方が子どもの頃”登った岩”を探す事にあった。

子どもの頃の古い写真を見て、今でもこの岩あるかしらん?から始まった。
その時に撮った何枚かの写真から、周囲の山の形などから木戸池周辺と見当をつけての事だった。

でも、記憶も写真も半世紀近くの時間経過した今は、開発も進んだし天気も悪く、広い範囲を探せるわけもなく、思い出探しは、またの機会となった。

そうと決まれば、あとは飯綱へ向かうだけだ。

しかし、丸池から少し下ったところで、この辺に滝があったことを思い出した。長野県でも有数の大規模な滝、潤満滝(かんまんだき)だ。雨も上がってきたので覗いて見ることにした。

この滝は、数年前に兄の家族たちと一緒に志賀高原へ行ったときに、皆で見に行って知った滝だ。スキーや山登りで昔から志賀高原へは何回も行っていたけれど、その頃はこの滝のことは知らなかった。

この滝見台にある石碑には、若山牧水が「静かなる旅をゆきつつ・草津より渋へ」のなかで語ったこの滝の印象が記されていた。
落差107m、幅20mの滝だが、道路から少し山道を登ったところにある展望台から滝までは、かなり離れているので、落差が107mといっても、その落差の迫力を感じることは出来ない。

木戸池から丸池へ、そして湯田中温泉辺りまで下るにつれて、霧も雨もあがってきた。それに従い気温も徐々に上がってきて22℃になった。
その後、信州中野から千曲川を渡り、長野市へ入りアップルラインを進み市街地へ入ると、天気は上々、気温は上昇、ついに25℃になった。この日の東京より高い気温だった。

長野市内でいつものように食料を調達して、いつものように善光寺さんの裏山の七曲を登って、飯綱へ2ヶ月半ぶりだ。
辺りは、草木が濃い緑色に染まり、高原の短い夏を惜しむように花が咲いていた。でも少し遅いかもしれない。ここまで上がってくると、やっぱり涼しい。17℃だ。
久々の小屋だが、小屋を囲む森も濃い緑で鬱蒼として、薄暗い感じさえする。庭も草が伸び放題だし、森の下草も元気良く伸びている。あと一ヶ月もすれば、枯れてしまうのかと思えば、夏が短い高原の草花は、今が一生懸命な時なのかもしれない。冬が訪れる前に種子を育て上げ、はじけて地面に撒き散らすものや、鳥の餌として食べさせて、それを周囲へ運んでもらい芽吹くなどしているのだろう。


今、この庭で目立つ草花はアザミとキンミズヒキくらいだ。あとは、もう時期が過ぎてしまいそれほど元気が良くは無い。それでも、まだまだ結構見られる。
昨年、戸隠からもらってきて植えておいたタマアジサイは、根付いたようで、背は伸びていないが元気そうに葉を4枚付けていた。あと何年したら花が見られることやら・・・

森の中を見ると、ところどころ色づいた葉っぱが目に入る。まだまだ黄葉・紅葉には早いだろうが、高原では気温の変化が激しいために、早いものはそろそろ色づいてくるんだろう。紅葉・黄葉のはしりなのだろう。

陽が落ちて、暗くなった森の空を見上げれば、狭い視界だったが満天の星空だった。久しぶりの星空を見たという感じだ。

都会では、等級の高い星だけがポツポツと見えるだけだで、星降るような…という空は、こうした山間でないと、なかなか見れなくなってきた。しばらく眺めていると、すっかり現実を忘れて星の世界へ吸い込まれてしまった。

今回は、久々に娘も来れるということで、夕方の新幹線に乗ってやってきた。そして、ここへ来るといつも同じだが、久々に親子で川の字になって寝た。

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marutagoya  2008 Aug 29  tama
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