飯綱に着くといきなり フゥィ− フゥィー フゥィーと大きな鳴き声が聞こえてきた。姿は見えないが気になる鳴き声だ。たぶんゴジュウカラだろうが、これほど大きな鳴き声だったけかな〜?…。気になるので小屋へ荷物を運び込んで、すぐに双眼鏡を持って探してみると、高い木の天辺でさえずっている姿を発見した。時々、警戒音のピッピッピッピッピッピッピッという鳴き声になったり・・・
ウグイスも、まだそれほど上手くないけれど歌っていた。

そんな小鳥達の鳴き声に迎えられた、まだ春は遠い飯綱の森へ行って来た。

まだ来ぬ春を待つ森

ピッ

ハザクラになった東京を後に、関越道を走り始めると辺りの風景も、少し前とは随分変わってきて枯れ色から色彩の世界に変わってきた。でも、今の時季は普通に緑が多くなった感じではなく、淡い色合いの新黄緑、靄がかかったような、それでいて辺りは明るい感じの萌葱色というのだろうか…。
新緑が若葉へ移り変わっていく様は、車で走っていくとよく分かる。練馬辺りでは、サクラが終わり緑濃くなってきていたが、しばらく走ると最盛期は過ぎたもののまだまだサクラが沢山咲いていた。それと同時に里山の森が萌えはじめ、曇天にも関わらず前述のごとく辺りが明るくなる感じだ。さらに進めば、ウメがようやく散り、サクラは盛りとばかりに咲いていた。東京では、すでに1ヵ月半ほど前に見た、コブシが盛んに白い花を咲かせている光景は、エッ何これ、と思うような感じだった。

やがて県境の峠に差し掛かり、トンネルを抜け出した辺りでは、1ヶ月前と同じような、枯れ色の世界が広がり、違っていたのは雪が無くなっていただけだった。信濃路を走り始めるて、しばらくするとウメ、アンズらしい花が目に入りはじめ、サクラも見え始め、また色彩の世界に戻ってきた。高速道の脇にはレンギョウだろうか真っ黄色の花が咲きほこり、陽の光にまぶしかだった。

上田から善光寺平へ、幾つかのトンネルを抜け出ると、いつものように真正面には飯縄山が視界に入って来た。この日は、春霞の中に薄っすらとシルエットとして見えていた。

トンネルを出た田んぼでは、チューリップが色とりどりに咲いて、既に花は終わったアンズの里が少し離れたところに見えていた。高速道路を下りて川中島古戦場跡まで来ると、サクラが満開だった。長野市内を通り抜けていくと市内でもあちこちのサクラが満開になっていた。

残雪は、屋根から落ちて固まっているところや吹き溜まりにでもなっていたところ、あるいは日当たりが悪い所だけだ。
大座法師池から見る飯縄山も、ずいぶん雪融けが進んで、スキー場はほとんど地面が見えていた。

小屋の周辺も、雪はほとんど消えていたが、吹き溜まりと屋根から落ちた雪は残っていた。屋根から落ちた雪は、まだ1m程度は残っていたが先月の半分くらいになっていた。

市内を過ぎ、善光寺さんの裏手の雲上殿へ行くと、サクラはまだ満開にはなっておらず、八部咲きくらいで、その後七曲を登っていくと、また枯れ色の世界が広がり始めた。標高が上がるにつれて残雪が目につくようになってきた。

着いた日は、良い天気だったが、天気予報どおり日暮れあたりから雨が降り始めた。それほど強い雨ではなかったが、夜中に目が覚めたときも雨音がしていた。

しばらく眠れなかったので雨音を聞きながら、明日の予定を考えてみた。
午前中は天気の回復はあまり期待できないので、その間にアクセス道路の整備とベランダの作業をしようと考えていたら、いつの間にか寝ていた。次に目が覚めた時は、外が明るく雨音がなかった。起きて外を見ると雲の切れ間から青空が見え、ガスがあがっていくところだった。


予報より天気が良く、朝陽も射し始めたので朝の散歩に出た。外へ出るとすぐにゴジュウカラとウグイスが歌っていた。ゴジュウカラは昨日と同じ枝先に止まっていた。今の時季は恋の季節なのだろうか、ゴジュウカラのカップルらしい2羽が追いかけるように飛び回っていた。

ウグイスは、家の森に昨年からいるのと同じのか分からないけれど、この朝も囀っていた。
すると呼応するように近くからさえずりが聞こえてきて、にぎやかな朝だ。
今は、これといった鳥がいない端境期だが、夏鳥が来るまでの間彼らがにぎわせて
くれそうだ。この冬は冬鳥も少なかったようだし…。

散歩で一回りしてきてもゴジュウカラはさえずり続けていた。そういえば、昨年の5月は、アカハラが同じように連日♪キョロンキョロンキョロリンチリリリと囀っていたことを思い出した。さらにホオジロも、同じように木の天辺で♪チョッチョッリー ピィーチョッピピロピィーと囀っていたのを思い出した。

雨あがりだが、春雨の後はそれほどスッキリしない。それでも、雪融けが進む飯縄山の頂上付近が、朝陽に照らされてはっきり望めた。
まだ新芽が出てこない枝についた、雨だれが朝陽に輝いていたキラキラしていた。それが、たまにポタッポタッと落ちる。
こうしたちょっと心が洗われる様な光景は、普段の生活の中にもあるのだろうが、気持ちにゆとりが無いためか、なかなか気がつかないでいる。

散歩から戻ったが、小屋の中へ入るにはもったいない朝の空気なので、しばらく庭(敷地内)を見て歩いてた。すると昨日は気がつかなかったフキノトウを一つ見つけた。雪融けとともにでも顔を出したのか既に花が開いていた。
屋根から落ちた雪の塊の下からは、雨が降った後だったり、気温が高いせいか雪解け水がちょろちょろ流れ出していた。

木を見上げると、まだ新芽も葉っぱも出ていないのに、黄緑色のこんもりしたボール状のヤドリギが見えた。これも不思議な光景だ。ヤドリギは常緑なので、今ごろは良く目立つ。ヤドリギの花は早春に咲き、果実は秋に熟すが、これを鳥が食べて、種子は鳥のふんに含まれて運ばれて、高い木の枝に寄生して勢力を拡大しているのだろう。でも、ヤドリギがあまり大きくならないのは、着生しての寄生だから、宿主へ少しは遠慮があるので控えているのだろうか。

これらの小さな営み事が少しずつ積み重なって、やがて、この森が春を迎えるのだろう。

小屋の中へ入り、朝食をしながら窓の外を見ていると、ホオジロが1羽地面に下りてきて、地面を突っついては、チョコチョコ歩き回っていた。

窓越しということを承知しているためか、危機感がないのか、平然と動き回る。窓越しに立ってもカメラを向けても気付かないのか平気だ。野生の本能は、危険かそうでないかを見極めて行動しているのだろう。
しばらく楽しませてくれたが、やがて森の中へ飛んでいった。

そうこうしていると、天気予報どおり、またポツポツし始めた。午前中は雨が残るといっていたので仕方ない。大した雨ではないので、雨が降ると泥んこになるアクセス道路を少し整備することにした。

この小屋を造った時に、アクセス道路は自然への配慮として木屑を撒いておいたのだが、雨の度に流されて、泥んこになってしまうので、昨秋、雪が来る前に上げて置いてもらった砂利をばら撒いて泥濘にならないようにした。雨水が流れる所は、溝を掘りそこへ5〜6cmの石ころを埋めて、雨水がまとまって流れるようにしてみた。

もうすぐ戸隠の中社から奥社へ通じる幹線道路へ出ようとした10mくらい手前の道路上に、除雪用グレーダーが停車しているではないか!! 運転手が居ないか探し、少し先へ歩いてみると、幹線道路からこちらへ入ってくる所には、「積雪の為通行止め」の看板とA型バリケードで通せんぼがしてある。ああ、ここまできたのに、誰かが反対側の通せんぼをはずしておいた為に、・・・・仕方ない、引き返すしかない。でも、ボヤキながら帰る道端にはフキノトウが沢山出ていて、採ってきて蕗味噌炒めを美味しくいただいた。

宝光社まで戻り、幹線道路を森林植物園まで行った。園内を歩こうと行ってみたが、まだ除雪前で一面の雪野原だ。でも雪は締まっていて歩いても沈まない。みどりが池の周囲をぐるっと回ってみたけれど、鳥の鳴き声は聞こえるけれど姿は見えず、鳴き声は飯綱と同じようなものばかりなので帰ることにした。日当りの良いところの地面には、ここでもフキノトウがいっぱいだった。植物園内だから採取はいけないのだが…。

このあと2日間、良い天気が続いたので、まだ春が来ない高原を楽しんだ。

昼近くになり、雨はあがり急速に天気は回復してきて、青空が見え始め太陽が顔を出してきた。ならば戸隠へ行こうと出かけた。

宝光社まで来たところで、鏡池はどうかと思い左折して民家の間の細い道路を入っていくと、通行止めではないが、通せんぼのA型バリケードが置いてあった。でも、それが端に避けてあったので通れるものだと思い進んだ。鏡池へ着いたが、湖面はまだ凍っていて鏡どころではなかった。

さらに進むと飯綱とは違い、周囲は一面積雪で覆われて道端も1mくらいの壁になっていた。

自然の力というのは凄い。ちょうど1ヶ月前に来た時には、飯綱で1mくらいの積雪の雪野原が一面に広がっていた。増してや飯綱標高+100mの戸隠では1.5mくらいの積雪だったが、今は地面が見えるまでに融けて消えた。
戸隠のスキー場は、まだ一面真っ白で、滑ろうと思えば滑れる。チャンピオンコースもシルバーコースも、今はただ山の一部としての急斜面となって静かな中にあり、時おり野鳥たちの鳴き声が聞こえてくる。スキー場の関係者も誰も居ないゲレンデに立って、それらのコースを見上げるとあの時の歓声が聞こえてくるようだ。

反対側を見れば、雄大な戸隠連峰が立ちはだかっている。幾分黒さが増してきたような山肌だが、厳冬期でもあまり変わらないような気がする。
それは、あまりに急峻な岩肌には、厳冬期でも雪が付かなかったからで、あと1ヶ月もすれば沢筋の雪が雪崩たり、融けたりして地肌が露出してくるだろう。そうすれば、八方睨辺りへも容易に登れるようになる。

今、戸隠山で一番の景観は、表山と高妻山の対照的な姿だ。
前衛ともいえる表山から五地蔵山、そこから回り込むようにして、表山と五地蔵山の鞍部の奥に三角錐の山容が真っ白に聳え立つ高妻山。前衛の山は荒々しく、その間に見える高妻山は鋭く聳えているが、優しく見える。

戸隠から飯綱に戻れば、ここはもうかなり春のような気がする。気温的にも数度差あり、辺りの地面の出具合からしてもだ。ところが、ここ飯綱から市内へ下ると全く違う春の世界が広がっていた。
飯綱の森は、枯れ枝から新芽が出始め、鳥達がにぎやかに歌い恋の季節がはじまり、太陽が暖かさを増してきて、地上のものたちは、もうすぐそこまで来ている春を感じている。

【訪れた時は、4月中旬だったが、今はミズバショウやリュウキンカなど春の花が咲きはじめたという便りが届いた】

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marutagoya  2008 April. 28 tama
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