五月の森

都会の樹木は、既に濃い緑色の葉に覆われ、更に緑色を濃く、木々の葉っぱは養分を蓄えるために葉肉を厚くしている。
若葉の頃は、強い太陽の光を透かして見えるようだったが、もうそんな風景からしっかり葉陰を地に落とすようになった。

春が遅い北信濃の山では、漸く春を迎えた。
ヤマザクラが咲き、やっと柔らかそうな黄緑色の若葉が少し出始めてきたが、まだ木々の枝ばかりが目立ち、空も辺りを見回しても透けて丸見えだ。

空を見上げると、青空を背景にヤマザクラの淡いピンク色も、まだ芽吹いたばかりの柔らかな若葉も、青空に吸い込まれてしまいそうだ。

草花もやっと、地面から顔を出し始め、芽吹いた梢には夏鳥たちが遣ってきて囀りはじめた。

冬の間、沢山積もった雪が消え、森の地面に積もった枯葉は、雪の重みから解放され、春の陽気でフワフワになった。
歩くと気持ちいい。
そんな枯葉をかき分けて山菜も顔を出した。
ワラビ、ヤマウド。

ヒトリシズカがひっそりと一つ咲き始めた。こんな風だと名前の通りなのだが、これからどんどん咲き始める。
そんな様子を見ると、この名前とは似つかわしくないと思えてくる。

フデリンドウは花を咲かせている。
ベニバナイチヤクソウは出始めたばかりで、花を咲かせるのは5月下旬ころだろう。

今頃の森は、芽吹き時で野鳥を見るには、まだいい時期だ。もう少しすれば葉が生い茂り、野鳥のさえずりは聞こえど姿は見えず、という風になってしまう。
この時期は、ちょうど夏鳥も遣ってくる時なので、バーダーやカメラマンが多い。
そんな森を歩けば、沢山の野鳥を見れる。鳴き声も沢山聞ける。にぎやかな森だ。
渡ってきた夏鳥は、縄張りを主張して縄張り内を飛び回りながら、あっちで鳴き、こっちで鳴きと忙しいが、見ているこちらとしては、ある場所にじっとしていれば、近くに来てまた姿を見せて鳴いてくれるから良い。

2016  May.14  tama
back to Nature Info

五月の森の湿原は、ミズバショウやリュウキンカが咲く時期でもある。
雪解けのまだ冷たい水の湿原なのに、なぜこんなにも沢山一斉に花を咲かせるのだろうか。

黄葉といえば秋だけだと思われるだろうが、春、ゴールデンウィークの頃にも山が黄色に染まる。
萌黄色と言われる色だ。秋のようには強くない淡い色で、この淡い黄色に染まった山の色が好きだ。今年芽吹いたばかりの新葉は、緑色が深まるまでの半月ほどの間、木の種類によって様々な色をみせる。
黄色にもいろいろな黄色があり、やや濃いものや淡いもの、レモン色、赤みがかった黄色、黄緑色などだ。
そんな春の黄葉の中に、淡いピンクのヤマザクラ、白樺の白い幹。こんな風景が好きだ。

高原の五月の森は、冬から目覚めた樹木・草花・野鳥・動物などが活動を始める時だ。
芽吹き、花を咲かせモノクロの世界から彩の世界へと移っていく時だ。

HOME
inserted by FC2 system