足を伸ばし戸隠の鏡池へ行ってみた。この池へ行っても、たいていさざ波が立っていて名前のような鏡映しに見える機会は少ない。何回行ってもダメだったがこの日は、鏡の如く映し出された逆さ戸隠山が見れた。天気が回復し始めたばかりで少し暗い感じではあったが、初めてこんな波が立っていない鏡池だったので、嬉しくなって写してみた。

黄葉はすっかり終わり、枯れ色の湖畔が映し出されているが、シラカバの
白い幹の色が目をひく。もう少し待っていればもう少し綺麗な風景が見え
たのかもしれない。

翌朝は、雲が多いながらも徐々に晴れ間が広がってきた。アルプスが良く見える場所へ行って鹿島槍、五龍、唐松岳へ、さらに白馬三山へ続く景色を眺めようとしたが、低く垂れ込めた厚い雪雲の下面と前衛の山とのわずかな空気層の間隙から八方尾根の下部辺りを望めただけだった。

そこから、近くの戸隠連峰を望むと、やはり重い雲が切れ始め、山を覆っていたガスも上がる様子だ。折りしも朝の陽射しが射し始め、日当たりと日陰のコントラストが綺麗な風景を見せてくれた。

戸隠山も昨日雪が降ったようで、砂糖を振り掛けたような感じで、まだ黒い岩肌を残していた。もっとも、戸隠山は急峻な岩峰だから、真冬に大雪が降っても雪が付かずに谷すじに積もるだけだ。

11月半ば、ここのところ都会でも冷え込みが強くなってきて、街路樹や公園の木々がめっきり色づいてきた。夜来の雨が上がり、小春日和の朝、過ぎ行く晩秋の北信濃へ向かった。

いつものように、関越道を晴れ上がった青空の下、左手には裾野まで真っ白な綿帽子をかぶったような富士山がきれいだ。雨上がりで空気が澄んでいるのか、正面には上毛の山々が見えてくる。ここから見える上毛の山々は、関東平野のどん詰まりに当たる。

埼玉県と群馬県境に差し掛かる頃には、赤城山・榛名山・妙義山の山並みの左端にポッコリ丸く、ここも真っ白く雪化粧した浅間山の遠望が目に入ってきた。

碓氷の長いトンネルを通り抜けると、さっきまで遠くに見えていた浅間山の裾野まで近づき、真正面に大きな山体が現れた。何時見てもなだらかな曲線を描いて見せてくれる山頂部の釜山と、それを守るように高峰高原から続く荒々しい外輪山の黒斑山、前掛け山だ。

更に進むと、小諸から上田にかけての山々は黄葉がすばらしくきれいだった。高峰高原辺りを見ると木々が白く、たぶん霧氷だろう。あの辺りは標高2000m以上あり、冷え込みが厳しいく比較的雪は少ない地域だから、今時分はやっぱり霧氷なのだろう。


上信越道の幾つものトンネルを抜けて、最後の有明トンネルを出ると善光寺平だ。狭い山に囲まれた盆地だが、生まれ育った地、懐かしく、そして真正面には飯綱山と右手には白く尖った戸隠・高妻山が視界に飛び込んでくる。いつもの風景だ。ここまで来れば、もうすぐ高速道路を降りて川中島の古戦場跡の脇を通り、市街地を通り抜けて飯綱高原へ登って行く。
いつも飯綱・戸隠へは善光寺さんの裏山にある七曲の道路を登っていくのだが、冬支度でスノーシェードの工事中で通れない。久しぶりにオリンピック道路のループ橋を通らなければならない。少し遠回りだが快適な道路だ。

ループ橋のすぐ横に「ブランド薬師」と書かれた看板がある。ちょっと変わったこの名前、昔からあるけれど、なんで、こんな名前がついているのだろうか。このブランド薬師、古くは「浮蘭渡八櫛」とか「ぶらん堂」と呼ばれていたそうだ。断崖絶壁の中腹にあるこのお堂、歩くとゆれてブラン、ブランすることから「ぶらん堂」と名づけられたそうだ??。これがいつの間にか、現在の名称になったらしい。

この道路を登っていくと眺めがすばらしい。途中には棚田が見えたり、志賀高原から菅平へかけての山並みがきれいなスカイラインとなっている。ちょうどこの日これらの山々が初冠雪だったとラジオが告げていた。平年より10日くらい遅いらしい。横手山は真っ白く雪をいただき、南部の根子岳は山頂付近が薄っすらと白くなっている程度だった。
ここの山里は、長野オリンピック開催前までは、静かな、そしてあまり便利なところではなかった。道路もたいして整備されず狭い山道を行き交っていた場所だ。今でもその名残はあるが交通の便が良くなれば、更にその上の便利さを求めて・・・今では、この街道沿いにも新興住宅がたくさん建ち並び、かつての素朴な山村風景が少しずつ消えていっているようだ。
黄色く色づき、たわわに実っている柿の木があったが、今の人たちは、そんな美味そうな柿になんか、全く興味を示さないようだ。私が子どもの頃は、柿だのりんごは、おやつだった。それも、そこに生っているものは、皆のものだった。

晩秋の北信濃 飯綱 戸隠

ループ橋からの道路を登りきると、目に飛び込んできたのは飯綱スキー場脇の真っ黄色に色づいたカラマツの黄葉だった。午後の強い陽射しを受けて一層鮮やかさを増していた。普段は、この辺りは通らないので新たな発見だった。
冬はこの脇を滑るのだが葉っぱは落ちてしまい黒々した太い幹が林立し細い枯れ枝だけで、吹雪いている日など何の役にもたたない。

飯綱に着いた日は、良い天気だったが、日が暮れた頃から雨が降り始めた。天気予報では前線が通過し、その後は弱い冬型の気圧配置となると言っていた。

明け方まで、断続的に降り、夜明けとともに雨はいったん上がって、陽射しもあったが日中は小雨晴れ間とあまり良い天気ではなかった。

午後遅くなって晴れ間が出始めた。すると残照に照らし出された飯綱山の7、8合目から上のほうが、薄っすらと白い砂糖でも振りかけたような雪景色になっていた。木の間から見えた戸隠山・西岳も雪化粧だ。飯綱山の中腹に夕日がスポットライトのように当たり名残の黄葉が光り耀いていた。

鏡池から森林植物園へ抜けていく、少し高台の山道から黒姫山の頭が良く見えた。戸隠山は、ガスがかかったり切れたりしていたが、黒姫山はすっきり晴れた青空に、で〜んとした山体を見せていた。もう少し良く見たいと思い、奥社入り口を過ぎ牧場入り口まで行ってみると、ここからは裾野から頂上付近まで大きく見えた。

この戸隠から見える、それぞれの山を表現すると、黒姫山は、おおらかな高原の山。戸隠山は、神話と信仰の山。そして飯綱山は、やさしくて明るい山という感じ、ではないだろうかと、勝手に想像している。
黒姫山、戸隠山それと飯綱山の間は、ほぼ8kmの距離を置いて三角形を成している。そしてその間を鳥居川が流れ下り、やがて千曲川へ流れ込む。この三角形の平地は、戸隠辺りなのだけれど、その中に入り込んでしまうと、これらの山が三角形を成しているという、その感じは全くしない。
三体三容の山だけあって、登ってみるとそれぞれに楽しみのある山だ。

既に終わってしまった黄葉、紅葉。色づいた鮮やかな木々の頃は大勢の観光客でにぎわっていたのだろうが、少し時季遅れの今頃は、それも平日には人影がほとんどなく静かで良い。

色づいた木々もそれほど鮮やかさはないけれど、名残の秋を楽しませてくれるには十分だ。もう、広葉樹の葉っぱは大方落葉して、歩けばカサコソ心地よい足の感覚だ。そんな中で良く見れば、まだまだポツンと鮮やかさを輝かせている紅葉、黄葉が残っている。

静かな晩秋の北信濃の山々は、初冠雪から何回かの雪を纏っていたのだうが、そろそろ降る雪は、これから半年あまりの長きを覆い尽くす根雪になるのだろう。そんなモノトーンの季節を予感してか、毎年毎年その前に全山鮮やかに色づいて、眠りにつくのだ。それが自然の営みなのだろう。

たぶん、この次訪れる頃は、モノトーンの季節になっているんだろう。

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2007 Nov.20 tama
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