足を伸ばし戸隠の鏡池へ行ってみた。この池へ行っても、たいていさざ波が立っていて名前のような鏡映しに見える機会は少ない。何回行ってもダメだったがこの日は、鏡の如く映し出された逆さ戸隠山が見れた。天気が回復し始めたばかりで少し暗い感じではあったが、初めてこんな波が立っていない鏡池だったので、嬉しくなって写してみた。
黄葉はすっかり終わり、枯れ色の湖畔が映し出されているが、シラカバの
白い幹の色が目をひく。もう少し待っていればもう少し綺麗な風景が見え
たのかもしれない。
翌朝は、雲が多いながらも徐々に晴れ間が広がってきた。アルプスが良く見える場所へ行って鹿島槍、五龍、唐松岳へ、さらに白馬三山へ続く景色を眺めようとしたが、低く垂れ込めた厚い雪雲の下面と前衛の山とのわずかな空気層の間隙から八方尾根の下部辺りを望めただけだった。
そこから、近くの戸隠連峰を望むと、やはり重い雲が切れ始め、山を覆っていたガスも上がる様子だ。折りしも朝の陽射しが射し始め、日当たりと日陰のコントラストが綺麗な風景を見せてくれた。
戸隠山も昨日雪が降ったようで、砂糖を振り掛けたような感じで、まだ黒い岩肌を残していた。もっとも、戸隠山は急峻な岩峰だから、真冬に大雪が降っても雪が付かずに谷すじに積もるだけだ。
晩秋の北信濃 飯綱 戸隠
ループ橋からの道路を登りきると、目に飛び込んできたのは飯綱スキー場脇の真っ黄色に色づいたカラマツの黄葉だった。午後の強い陽射しを受けて一層鮮やかさを増していた。普段は、この辺りは通らないので新たな発見だった。
冬はこの脇を滑るのだが葉っぱは落ちてしまい黒々した太い幹が林立し細い枯れ枝だけで、吹雪いている日など何の役にもたたない。
飯綱に着いた日は、良い天気だったが、日が暮れた頃から雨が降り始めた。天気予報では前線が通過し、その後は弱い冬型の気圧配置となると言っていた。
明け方まで、断続的に降り、夜明けとともに雨はいったん上がって、陽射しもあったが日中は小雨晴れ間とあまり良い天気ではなかった。
午後遅くなって晴れ間が出始めた。すると残照に照らし出された飯綱山の7、8合目から上のほうが、薄っすらと白い砂糖でも振りかけたような雪景色になっていた。木の間から見えた戸隠山・西岳も雪化粧だ。飯綱山の中腹に夕日がスポットライトのように当たり名残の黄葉が光り耀いていた。
鏡池から森林植物園へ抜けていく、少し高台の山道から黒姫山の頭が良く見えた。戸隠山は、ガスがかかったり切れたりしていたが、黒姫山はすっきり晴れた青空に、で〜んとした山体を見せていた。もう少し良く見たいと思い、奥社入り口を過ぎ牧場入り口まで行ってみると、ここからは裾野から頂上付近まで大きく見えた。
この戸隠から見える、それぞれの山を表現すると、黒姫山は、おおらかな高原の山。戸隠山は、神話と信仰の山。そして飯綱山は、やさしくて明るい山という感じ、ではないだろうかと、勝手に想像している。
黒姫山、戸隠山それと飯綱山の間は、ほぼ8kmの距離を置いて三角形を成している。そしてその間を鳥居川が流れ下り、やがて千曲川へ流れ込む。この三角形の平地は、戸隠辺りなのだけれど、その中に入り込んでしまうと、これらの山が三角形を成しているという、その感じは全くしない。
三体三容の山だけあって、登ってみるとそれぞれに楽しみのある山だ。
既に終わってしまった黄葉、紅葉。色づいた鮮やかな木々の頃は大勢の観光客でにぎわっていたのだろうが、少し時季遅れの今頃は、それも平日には人影がほとんどなく静かで良い。
色づいた木々もそれほど鮮やかさはないけれど、名残の秋を楽しませてくれるには十分だ。もう、広葉樹の葉っぱは大方落葉して、歩けばカサコソ心地よい足の感覚だ。そんな中で良く見れば、まだまだポツンと鮮やかさを輝かせている紅葉、黄葉が残っている。
静かな晩秋の北信濃の山々は、初冠雪から何回かの雪を纏っていたのだうが、そろそろ降る雪は、これから半年あまりの長きを覆い尽くす根雪になるのだろう。そんなモノトーンの季節を予感してか、毎年毎年その前に全山鮮やかに色づいて、眠りにつくのだ。それが自然の営みなのだろう。
たぶん、この次訪れる頃は、モノトーンの季節になっているんだろう。