上【ムラサキハナナ/アブラナ科】

 下【ムラサキケマン/ケシ科】

公園内を歩いていくと、北側の斜面に目を引くムラサキ色が見える。小さな花がまとまって咲いている。ホトケノザのようにも見えたが、葉っぱが全然違う。今の時季、紫色をした小花は沢山咲いているけれど、何か透き通ったようなムラサキとシロが綺麗だった。この花、ムラサキケマンも日本各地、どこにでも生育する一年生の草で秋に芽生え、春に紫色の花を咲かせる。葉っぱの新しい黄緑が新鮮味を感じさせてくれる柔らかい草だ。でも、直射日光が当らないような場所に生育する、ちょっと暗い花なのだ。

名前もケマン(華鬘)なんて、仏前を飾る装飾仏具の名前をいただいているが、そんな名前とはかけ離れた高貴な色合いの花だと思っているのだが・・・。でも、そんな仏具に良く描かれていたのか、そんなイメージがあるのかは知らないが、直射日光を嫌うという、そんな陰気な名前になったのだろうか。

この時期の風景に絶対といっていいほど顔を出す花に、青紫色でどこにでもあるムラサキハナナ(紫花菜)がある。普通はハナダイコンとかダイコンバナなどと呼んでいる。でも大根とは関係ないし野菜でもない。
本当に、どこにでもあり、ちょっとした空き地や土手などに一面に咲いているところがある。20 年くらい前には、珍しかったようで、皆が欲しがっていたそうで、そのせいか現在はありふれた「雑草」になってしまったようだ。でも、群生している様は非常にきれいだ。ショカツサイ(諸葛采)ともいうがこれは中国の呼び名で、やっぱりこの花はハナダイコンとかダイコンバナと呼ぶのがいい。

四月新旧交代

春4月、世間では新年度や新学期が始まっている。学校では卒業し巣立った後に新入生が入ってきて、会社でも新入社員が入ってくる。
自然の世界でも、昨秋に休眠に入って枯れ色の世界を見せていた草木が、春の明るい陽ざしに目覚め始め、サクラが開花し、花が散り始めると新芽を新しい葉っぱを出し始めた。
この時期、世の中は新旧の交代する時期でもある。

サクラの花見は、一段落しハラハラ舞う花びらと木の下にしかれた花びらの絨毯。そして今度は、私の出番よ、と言わんばかりに若い、まだ赤味がかった葉っぱが出始めた。

そんな公園を歩いてみると、いろんな樹木で、草花で新旧交代が行われている。木に巻きついている、つた類の葉っぱを見ると、緑濃い、黒っぽくさえ見える葉っぱが見えるけれど、それに負けじと、黄緑色をした若葉が出てきて、その数を増やしている。見るからに濃い緑の葉っぱは硬そうな葉っぱだし、黄緑色のは軟らかそうな感じがする。実際に裂いてみるとその硬軟が良く分かる。

サクラの花は、木によって咲き具合がかなり違っている。サクラの種類にもよるし、植えられている環境でも違うようで、ほとんど散ってしまったものがあると思えば、これから見頃のまでいろいろだ。

サクラが散り始めた木を見上げれば、そこの空間には、残っているサクラの花と、まだ目覚めたばかりで枯れ色をした木、既に黄緑色の軟らかそうな若葉を沢山つけはじめている木といった具合に、それぞれの移ろいを見せてくれる。

線路脇に続く斜面を登ると高台が公園になっている。線路を跨ぐ高架橋からこの公園を眺めてみると、大きな森が線路脇にずっと横たわっているようだ。こんな一コマを切り取って見てみると、とても大都会とは思えない雄大な森に見える。でも、冬の間は、葉っぱが落ちた枯れ枝で、その隙間から向こうが透けていたので、今ほどどっしりした大きな森の雰囲気は出せなかった。これも、新しい季節が来て、新しい春の息吹がもたらしたことで見られる風景の一つだ。

公園内を歩いていくと、桜並木では明るい春の装いだが、ほとんどサクラの木が無い場所がある。こんなところは、常緑樹が多く、明るいサクラ並木とは対照的だ。そんな森からサクラの方を見ると、日中の明るい外を家の中から見ているような感覚になる。

この森から抜けると、そこはポッカリとした芝生の空間が待っていた。円形の芝生の隅には八重桜が、重そうな花を沢山咲かせていた。ソメイヨシノなどに比べると花の大きさも違うが、見るからに重そうだ。

そんな風景を見ながら、一人の少女がスケッチをしていた。今時、スケッチをする人、それも若い人の姿を見るのは久しぶりだ。世の中が忙しなくて、そんな落ち着いた気持ちになれないのか、そんな気持ちすら持ち合わせていないのか、それは分からないが・・・。

薄暗い常緑樹の森に立って、空を見上げれば、まだ出始めた薄い葉っぱを、日中の明るい空からの光は透かして見える。この透かしてくる光も、徐々に緑色が濃くなっていくと遮られてしまう。

でも、その頃は陽射しがもっともっと強くなっていて、この薄暗い感じの森が心地良い避暑地になっているだろう。真夏の陽射しからこの森へ入ると、ヒンヤリとした一時の涼の贈り物がもらえるかもしれない。自然とは、こうしたうまい仕組みになっている。

4月も10日が過ぎ、天候も相変わらず高温ぎみとは言いつつも、いつもの4月くらいの陽気になってきたような気がする。サクラは思いのほか長い間咲き続けている・・・ような気がしている。

季節は移ろい、ようやく春の装いだ。この時期の植物の生長速度はものすごい勢いだ。2、3日前にずいぶん青々してきたな、なんて見上げていた街路樹が、ちょっと見ない間に目にも鮮やかな黄緑色に、それもこんもりとした姿になっていた。家のベランダから見えている公園も、先週は少し緑色が見えるようだな、と思って今日見れば、黄緑色が鮮やかだった。

人間の赤ん坊が生まれてから1、2年のうちに、まるっきり話なんか出来なかったのが、話が出来るようになっている頃のあの速さのように思う。

まあ、植物は、人に例えれば一生を一年で駆け抜け、それを何回も繰り返して、あるいは一年で終わってしまい、種という形から毎年毎年繰り返して生きていくものもあり、我々が単に、季節が移ろっていく中で花見の時期だ、芽吹きの時期だ、・・・ああ美しいなどと言っているが、植物達はいかに自分の子孫を後世に長く生かしていくかを必死で考えているのだろう。

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2007 Apr. 10 tama
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