コンクリートの壁と大きな森を抜け出た空間は、スーッと電車が横切っていく。線路側には竹垣、コンクリートの壁には蔦類がへばりついて涼しげだ。

この小道を右に行けば、前出の蝉坂へ行く。左へ行くと、8代将軍・徳川吉宗が桜の植樹を命じ、千本以上を植栽して江戸庶民に開放し、それ以降、江戸城北の花見の名所として賑わったという公園があり、現在は桜が約650本。1万5千株あるツツジが有名な場所となっている。この飛鳥の小径に沿っていくとこの公園へも通じている。

しばらく公園の方へ線路に沿って歩いていく。情緒のある小道と近代的な電車が走る鉄路、新幹線の高架が対照的だ。
ただのコンクリート壁だけだったら、電車が走る金属音だけが反射して無味乾燥な風景だが、蔦類が壁に這い、それらの音を吸収してしまうのか、柔らかく反射しているのか分からないが、この小道を歩いていても脇を通り過ぎる電車は然程気にならないのは、なぜなのだろう。
ここへ来ると、さっきまでうるさいほど聞こえていたセミの鳴き声が聞こえない。何か不思議な空間だ。

この道では、昔はにぎやかにセミが鳴いていたのだろうけれど、今はこちらの坂道の方が、木々が生い茂っているせいかセミの鳴き声は多い。
坂道を下りきると、公園もここまでのようだ。坂道の一番下端は、土留めのように大きなコンクリートの壁ができていて、その壁と大きなトトロの森の間を1mくらいの小道が、さらに下っていく。 突き当たると、そこには「飛鳥の小道」と書かれた遊歩道があった。

公園内の坂道を下っていくと、ぽっかりと青空がのぞいていた。
右側の森はトトロの森を思わせるような大きな木が茂っている。

最近は、どこの公園へいってもジョギングコースがあるが、この坂道もそのようだ。コース案内のたて看板に200m折り返し点、と書かれていた。この坂を走るのは、結構きついように思える。15度くらいの傾斜がありそうで、ここを下り折り返して上がってくるのは大変だ!
今は、下っていくだけなのに、この汗だ・・・他人事とは思えない。

坂道の奥を見てもその先がどうなっているのか、よく見えない。緑の木々が茂っているだけなのだ。何があるのだろうと、いろいろ想像をしながら歩く。相変わらずセミの鳴き声は衰えない。協和音のように聞こえたり、不協和音になったり、セミたちの息ずかいが聞こえてくるようだ。
この坂道と平行して神社の境内に沿うように「蝉坂」という坂道がある。

セミ時雨といっても、セミの姿はほとんど見えない。というより、あまりにも暑くて見る気になれない?吹き出る汗の方が気になって・・・そんな暑さだ。木陰でわずかに吹いてくる風を探し、汗が吹き出る腕を、頬を撫でていく涼しさに当たるとホッとする。
見上げれば、濃い緑のはずの天井も夏の強い太陽の光を受けて、透けて見える。透けた緑の天井の向こうには青い夏空が、本当の天井はこっちだよ、と言わんばかりに明るく見える。

セミ時雨、過ぎ行く夏・・・

今シーズン初めて上陸しそうだった8月の台風が過ぎ去った翌日、カラッと晴れ上がった夏空にセミ時雨がにぎやかだった。

♪ミ〜ンミ〜ンミ〜ンミィ〜ン ♪ギジッ〜ギジッ〜ギジッ〜
♪ウィ〜ッ〜ウィ〜ッ〜ウィ〜ッ〜

ミンミンゼミ、アブラゼミ、ツクツクボウシ時々ヒグラシが鳴いていた午後の公園。午後3時。
最高気温は過ぎただろうが、暑さはまだまだ続いていた。木陰でも少し公園内を歩くと、吹き出すような勢いで汗が出てくる。そんな暑い午後の公園で元気な子ども達がいた。

公園内を流れる川に入ってバシャバシャ走りまわり、着ているものはビショビショに濡れ、この暑さに気持ちいい。その勢いで滑り台、ブランコと遊びまわっていた。

親も近くにいたが、こんな子どもたちを黙って見守っていた。最近の親としては、めずらしくいい感じだ。子どもたちも、このまま自由奔放な気持ちを持ち続けて大きくなってほしいものだ。

【午後の公園で見上げた空には、発達しきれずにチリジリバラバラになりつつある入道雲が右往左往していた。その合間から太陽が幾条もの光線を放っていた。】

遅かった梅雨明けで、この夏はどんな天気になるのか気になっていた。しかし、梅雨明けとともに真夏がやってきて、真夏日や熱帯夜の日数こそ例年より少なかったけれど、気温の高さでは記録的な暑さだった。
この暑さいつまで続くかと思っていたら、8月最終週には涼しい秋風が吹き始め、秋の虫の音が聞こえるようになってきた。まあ、これは普通の流れかと・・・だいたいお盆が過ぎれば、暑さもひと段落、これが本来の夏だったような気がする。最近の気候が異常すぎるのだ。

そんなこんなで、暑い暑いと言いつつ夏が過ぎていく。

石畳のこの小道は、日陰になることもそうだが、緑と日陰の石によって涼しさをもたらしているようだ。公園内のあの暑さは何だったんだろうと、ホッとする。
この小道脇に付けられている街灯もレトロな情景を醸し出す。空に向かって、この鉄路と壁に挟まれた狭い小道の空間を広くしているようだ。その先の大空には、もくもくと大きく湧き上がってきた入道雲がいっそう雄大さをみせて、この狭い空間をそう感じさせない。

今の時点で今夏が短かったとはいえないが、状況からすると短いような気がする。それにこの夏は雷雨はあったけれど、昔のように真っ青な空にモクモクと白い入道雲が湧いてくる光景が少なかった。このごろ見る空にはポカポカ雲が次から次からやってくる。

こういう光景は、以前海外に行っていた頃、よく赤道近くの国々で見た雲だ。南米のスリナム、アフリカのサントメ・プリンシペなど暑い国で・・・、遠くの空からポカリポカリやって来る雲が想い浮かぶ。南米のスリナムでは午後2時から4時までは休み時間。暑い時間は、店も全部休み、仕事は午前7時から午後1時までで終了。だから私は、借家の2階ベランダにロッキングチェアーをだしラムのオレンジ割りを飲みながらボーっと空を眺める日々を半年もおくった。その時眺めている地平線の向こうからどんどんやって来るそんな雲だ。
そんな、雲がこの頃よく見られる。つい先日もベランダに出てボケーっとしながら空を眺めていると、遠くにモクモクっと湧き上がっていた雲が崩れ始めて、千切れ雲になってポカポカ流れ始めた。発達しきれない入道雲、それよりも強い上空の風。どんどん流されて自分の上を流れて通り過ぎていく。そしてきれいな青空が広がり始めた。いよいよ熱帯化が始まったのだろうか。最近は、南の蝶や野鳥がどんどん生息域を北上している。空もそうなのだろうか。

そんな情景を見ていると、この空は昔行った彼の地へ繋がっている。あの頃のあの地は、今どうなっているのだろうか、と思い出す。
ぼんやり夏の日、過ぎていく夏の日に、彼の地へ思いを馳せる。

セミ時雨も夏の終盤になって変わってきた。8月のはじめのころは、ミンミンゼミとアブラゼミがほとんどだったが、今はツクツクボウシがかなり多くなってきた。

アブラゼミを除いてセミの鳴き声には、必死なところがある。ツクツクボウシやミンミンゼミの鳴き声には特に感じる。ミンミンミンミンミンミ〜ン ミンミンミンミンミンミ〜ンこのミンミンに息つきが無く何回も鳴きやっとミ〜ンのところでひと段落。ツクツクボウシも同じような鳴き方をする。彼らの鳴きかたを聞いていると一生懸命さを感じる。それも当たり前かもしれない。長い年月地中にいて、地上に出てきたら1週間とか10日という命、そりゃあ精一杯鳴くでしょう。でも、これは、あくまでも人間側から見た感想であって、セミたちからすれば地上での数日間の日々より地中での生活のほうがいいかもしれない?が、それは分からない・・・。

遅かった梅雨明けも、一斉のセミ時雨で始まり、また短かった夏の終わりを精一杯のセミ時雨で終えようとしている。


田んぼでは、もう稲が黄金色を耀かせはじめている。もう少しすれば重くなった稲穂が頭を垂れるだろう。

暑い暑いといいながら、それでも過ぎていく夏、自分の部屋から見える小さな空間をみながら、ひと夏のことを考えてみたりしている。

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2006 Aug.31 tama
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