戸隠連峰の最高峰高妻山
2,353m(写真左)
表山の裏側の彼方に聳え
ている。

奥社参道の脇を流れる小川。表山から湧き出る冷たい水が気持ちいい。  20041024

今日の山登りを振り返って見上げる八方睨 20041024
戸隠連峰・八方睨 山行記    2004年10月
さて、そろそろ下山しよう。11時10分だ。
ここまでやってきた人たちは、ほとんどが戸隠山、九頭竜、一不動と表山を縦走して牧場に下って行くようだ。いろいろ聞いてみると、鎖場があって嫌だという声が多かった。

私としては、昔合宿で表山、裏山を縦走した思い出があって、あまり表山を歩きたいとは思わない。というのは昔なんでザックも今のようでなくキスリングという横に長く広がった大型のザックだった。これがまたバランスをとるのが大変で、蟻の塔渡りをあれを背負ってよく渡ったと思う。樹林帯の狭いところでは周りの樹木に引っかかって横になって歩いたり、今考えれば変なザックだった。
また、表山はアップダウンが結構あって、あの峰を越えれば・・・・この繰り返しで暑い夏、重い荷物・・・本当に嫌な尾根だった。

ということで、私はさっき登ってきた道を引き返す。

まだ。登ってくるパーティが何組もある。山では登りが優先だ、登ってくる人に道を空けて一声かける。
さすがにこのルートでは、他の山と違い、あまりお年の方は少なく、今どきめずらしいくらい若者が多かった。せいぜい私くらいの年齢が上の方だ。それでも60代を超しているようなパーティが1組いたようだ。無事に登ってほしいし、無理だと判断したら引き返してほしいと思った。

下りは、楽だ。鎖があるところは懸垂下降の要領でスイスイ降りられるのでほんとに速い。そうは言っても足元に注意して下山。 百間長屋で11時40分だった。

ここから下は、紅葉が始まっている雑木林の中、枯葉を踏んで下る。
時々滑ってバランスを崩す。そうこうしているうちに下から人の声が聞こえてくる、もうすぐ奥社だ。

今朝、登ってくる時とはまるで違う、人ごみになっていた。参拝客が家族ずれで、団体で来ておりにぎやかだ。写真を撮りにきている人たちもたくさんカメラを据えてシャッターチャンスを待っていた。
奥社着 12時ちょうど。 奥社にお参りをして帰ろう。

参道も観光客でいっぱいだった。奥社から少し下った参道の脇を流れる小川で顔を洗い汗を拭いてさっぱりした後は、観光客に混じって歩いた。
 
奥社参道入り口には12時20分到着。これで今日の山登りは終了だ。

八方睨の頂上  標高1,900m

久しぶりのスリル満点な山登りだったこともあり、また、八方睨の名前のとおり、今日のここから見える360度の展望がすばらしい!雲ひとつ無い日本晴れだ。
すぐそこに見える雪を頂いた北アルプスの白馬本峰、南部の穂高岳、槍ヶ岳の遠望がうれしい。戸隠・裏山の高妻山の絶好の展望台でもある。

このピークには、以前避難小屋があったがいつの間にかなくなってしまい、今は結構広い頂上になっている。ここでもあまり端っこへ寄ると周りじゅう絶壁なのであぶない!
 
すばらしい展望は何時まで見ていても飽き足りない。先行してきた人たちも、ここまで登ってきた蟻の塔渡り、剣の刃渡りのあたりを見ながら回顧したり、この大パノラマを楽しんでいるようだった。

しばらく景色に見入っていたが汗がひいてきて寒くなってきた。ガスコンロで湯を沸かし熱いコーヒーを入れ、一口ふた口、持ってきたチョコレート、お菓子を口にして体が温まってくると、この自然の中に抱かれて幸せ感がわいてきた。

剣の刃渡りを抜け出すと、しばらくなだらかな笹薮、痩せ尾根ながら少し樹木が生えている登山道になる。ただし右側に寄り過ぎると崖下へ墜落する恐れがあるのでご用心。
実際に、足元が笹に覆われるので気をつけなければならない。

そして、15mの鎖場があり、そこを越えるといよいよ八方睨のピークの直下にある、ほぼ垂直にピークへ突き上げるがっしりした大きな岩のチムニーとなる。
ここは、下部が少しガレ場になっていてズルズルとすべるところがあるが上部のチムニーは快適に登れる。そこを抜けたらもう360度の展望が開けていた。
10時25分、八方睨の頂上。約2時間の登りだった。
巻き道からまた痩せ尾根に登りちょっとした凹みに立つ。
今度は長さ約10mの一層狭いルート、剣の刃渡りだ。ここは、さらに狭く巻き道もないので頂稜を渡るしかない。何やら手の平らが冷汗で汗ばんできた。

ここで、よく眺めていたら、まともに細い尾根道を渡るより足下は切れ落ちていても側壁をトラバースぎみに登った方が安心感が持てたので人様とは少し違った方法だったが、これで渡り終えた。ホット一息だ。

ここは三つの山域から構成されている。一つ目は一不動から北にある五地蔵山、高妻山、乙妻山などの裏山、二つ目は一不動から南の九頭竜山、戸隠山、八方睨などをふくむ山塊を表山と呼び、八方睨の南側に連なる西岳から成る。

百間長屋から笹の中の道をしばらくジグザグに上がっていくと次第に左側足下の傾斜が急峻になって滑り易くなってくる。そのために登山道に沿った山側の岩に鎖が連打され、手すりとなっている。

この辺りからは、足元の地面は、泥や土だったものが砂礫やコロコロした小石に変わってくる。また、これから先はほとんどが岩登りだ。ここの岩は前述したように特殊な岩で、砂、泥の固められた中に丸石が埋められている感じだ。

さらに左上すると右の岩壁上に西窟がある。鎖につかまって小さなコルに出るが、そこが天狗の露地だ。左側にゴジラの背中のような岩がある。太い鎖が岩の頂上に向かってついているので登れるが反対側はスパッと切れ落ちていて結構な高度感だ。

ここからはほとんど急峻な岩場になる。傾斜もきつくなってくる。最初は30mの鎖場だ。ここは、割りと広々した岩で最後の上りきる辺りが狭いV字のチムニー状になっている。高度感もありホールドやスタンスもたくさんあるので快適だ。ただしここ戸隠の岩場だけは、ホールドやスタンスが信用できないので、鎖に頼ったほうがよさそうだ。

岩登りの原則は3点支持(確保)、手足4本のうち3本はいつでも岩に付いているということだ。残り1本の手か足が移動していくという形だ。ここの岩場はほとんど鎖が張ってあるがなるべく手足で攀じるようにした。 久しぶりの岩登りで以前の感覚がよみがえってきた。

ここ戸隠は、他の山岳の岩場のように岩に小さな割れ目のリスがなく、ハーケンが打ちこめないため支点がとれず極めて危険な山であり、標高から考えても甘くみてはいけない。

ここから蟻の塔渡りまでは、急傾斜の岩場が続く。見返りの岩があり、鎖の連続だ。この辺はまだ足元も比較的幅があり、左右にも草や木があって下方が見えないから極端に恐ろしいとは思わないが、これから胸突岩までの間はきびしい。特に下りでは注意が必要だ。
ほぼ直上する感じで進むと、胸突き岩だ。この胸突岩では垂直に近い15mくらいを登る。しっかりと鎖をつかんで登らないと危険だ。その先5mくらいの丸型の垂直岩を乗り越えたら一区切り、痩せた稜線に出る。
前方に広がる道幅が極端に狭い痩せ尾根が目に飛び込んでくる。蟻の塔渡りだ。

この先は、左右がスパッと切れているので落ちないよう注意が必要だ。蟻のように岩壁を這いつくばっていくようだ。景色をみている余裕もなくなるのでは・・・。

五十間長屋は、大きな岩壁の下部が高さ2〜3m位のところで丸く抉れて半トンネルのような形をしている。視界も利き、陽当たりも良く休憩には最適だし、多少の雨風であれば凌げる。
五十間長屋を右に見て、登山道は左上気味の斜面を岩に沿って進む。今度は、百間長屋だ。五十間長屋よりも規模が大きく、ここも下方が抉れていて休憩ができるいい場所だ。この百間長屋は登山道にもなっていて、中ほどにお地蔵さんが置かれていた。 いよいよ、ここから上がこの登山の核心部とでも言う部分だ。ここで、9時30分になった。

百間長屋あたりでは、今では遅いが9月ころにはダイモンジソウ、クロトウヒレン、ウメバチソウなどが咲くまた、このあたりからもっとも戸隠山らしい植物が見られる。7月中旬〜8月中旬のヒメシャジン、イワキンバイ、イワギボウシハ華やかだ。9月上旬にはトガクシイワインチン、トガクシコゴメグサ、タムラソウ、ミヤマママコナなどお花がいっぱいだ。今は既に終わり、紅葉の時期になった。

山行記

8時20分
八方睨への登山口は、戸隠神社奥社の裏手だが、県道の入山口から奥社までは約2kmの参道を歩く。この奥社の参道には樹齢何百年という杉並木が続く、この参道は一般の観光コースにもなっている。

まだ、この時間では観光客の姿はほとんど見えない。途中で既に奥社へ参拝し引き返してきた数人の
グループとすれ違っただけだ。
登山者の姿は駐車場で数人見かけたが、歩き出してからは、男女の一組を追い越してからは誰にも会わなかった。

奥社の社殿はこの参道の突き当たり、岸壁にへばり着いたように建てられている。ここで奥社にお参りをして、いよいよ山道にかかる。

社殿の下側の登山道入り口には、登山者カードを記入する台とポストが用意されているので必要事項を書き込み投函した。
すでに今朝、数組みのパーティが記入したカードが入っており先行者がいた。もっとも、山行でこの時間はどちらかといえば遅い。

道は社殿裏の大きな杉の木の右側を上がる。登山道は、いきなり急斜面のつづら折れの道から始まる。紅・黄葉が始まっている雑木林の登山道を高度を稼ぎながら登っていく。前日の雨が落ちている枯れ葉を濡らしており、時々滑る。
しばらくすると小さな尾根に出て、真下に奥社の屋根が見えてくる。

 
登山道の上り口付近には8月〜9月初旬ころならキツリフネ、ツルキケマン、ミツモトソウなどが咲く。

今度はさらに急なつづれ折の道を右に左に上がっていく。 いつもの癖で先を急いでしまう。
気がついて ゆっくり ゆっくり なんて思いながら登って来ると、ようやく傾斜もやや平らに
なり、笹の間の登山道を右の方へトラバースぎみにいくと左側から這い上がって来る尾根
の稜線に出る。
ここには大きな岩があり、一休みするにはいいが、ここはもう一踏ん張りする・・・。
右手には表山の岩壁が屏風のように大きく立ちはだかっている。

鋸歯状山稜を連ねる戸隠連邦の岩はたいへん脆く、危険だ。岩質は安山岩質凝灰角礫岩と泥岩、砂岩、凝灰岩層等から出来ている。断崖は硬い凝灰角礫岩が残り、砂岩、泥岩のやわらかい岩が風化、浸食が進み削られるという差別浸食の結果形成されたものらしい。この大断崖というか絶壁は、ほぼ垂直といってよく、高さは数百mもある。

この先登っていくとでてくる五十間長屋や百間長屋の岩屋は、凝灰角礫岩層の垂壁下部のやわらかい凝灰岩層部分が部分的に侵食されて横に長い岩小屋になったところだ。
また、蟻の塔渡り(ありのとうわたり)、剣の歯渡り(つるぎのはわたり)は、差別侵食により凝灰角礫岩の硬い部分が残り、幅30cm〜50cm内外のやせ尾根になったところだ。

さて、この戸隠連峰は、山域によっては一般向きでない場所もあるので自分の技量と照らし合わせて山域を選んでほしい。気をつけて、無理をしなければ決して難しい山ではない。ただ、その山容から、断崖絶壁とその高度感など北アルプス滝谷や谷川岳をおもわせるものがある。侮ってはいけない山だ。過去にいろいろな遭難事故が起こっている。

戸隠連峰について

戸隠連峰は北信濃の有名な北信五岳の一つで、長野市の東部から見ると後に北アルプス後立山連峰を控え、南北約10数kmにもわたり、標高2000m内外の怪異で屏風のように急峻でしかも鋸の刃のような山稜を連ねている。

ここ数年来、若い時分に登った山をゆっくり登ってみたい気持ちがわいてきている。
5月には、信州北部の名山、北信五岳のひとつ飯綱山へ登った。今回は、同じく北信五岳に数えられ
ている戸隠連峰のうちのひとつのピーク八方睨へ登ってみた。

さらに稜線のなだらかな道を行くと少し平らな所があり、大きなブナの木が二本、門のように立ち並んでいる。
この稜線の尾根道は、次第に細くなって痩せ道になってくるが、しばらく歩くと目の前に高さ40〜50mもある大岩壁に突き当たる。そこは三角形のひとつの頂点のようなところで、この頂点から右側へ登山道をはずれたところが五十間長屋、そのまま左の方へ登山道を行けば百間長屋だ。
付近に樹木がもう少しあったようだし道幅も広かったと記憶している。 浸食や崩壊が著しく、毎年崩れているようだ。巻き道ももっとしっかりした足場があったように思う。聞くところによれば最近、蟻の塔渡りの南側にあったテラスがそっくり抜け落ちてしまい、従来の安全な巻き道もなくなってしまったそうだ。

私も、ここは苦手だ。以前、何回か来た時は平気で?でもないが難無くヒョイヒョイと頂稜を渡ったけれど、今はそんな気持ちが消えてしまい、今回は下側の巻き道を通過した。

ここはできれば通りたくないところだ。何と言っても歩行できるところはちょうど肩幅ほどしかなく、両側はスッパリ数百mもの断崖絶壁だ。足元も丸石がごつごつしていて、つまずいたり踏み外したりしそうで怖い。ここを渡るコツは一気に行かなければだめだ、途中で立ち往生でもしたら、そこからなかなか動けなくなってしまう。
こうなったら、人目を憚らずに尻を落として岩を跨いで少しずつズリながら進むか、四つんばいになっていくしかない。
何はともあれ、約20mの蟻の塔渡りを通過、ただしこの巻き道も雪に削られたフェースで
高度感がある。

さて、急登が終わり、蟻の塔渡り手前の八方睨をみわたせる痩せ尾根へ出てきた。以前の記憶では、蟻の塔渡りの様子が少し違うようだ。
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戸隠連峰・左から西岳・本院岳おおきくたるみを経て表山の八方睨・戸隠山・右端・裏山の三角形に聳える高妻山 20041024

戸隠神社・奥社から八方睨への登山道を望む  20041024

約2kmの奥社参道。直径1〜2mの杉林
が両脇に生い茂る。 20041024

参道から目をあげると、今日これから登る
八方睨が樹林の間からちょうど目に入ってきた。20041024

屏風のような岩壁が大きく立ち並ぶ表山  20041024

百間長屋 :登山道上方から遠望(写真上左)五十間長屋はこの岩壁の裏側。
 ここは、登山道になっている。百間長屋の入り口側岩壁の下から(写真上右)  20041024

五十間長屋:登山道から右へちょっと入ったところにある。岩の庇で陰になっている。  20041024

ゴジラの背中のような岩  20041024   

ボロボロの見返りの岩、前の人が登りきらないと危なくて登っていく気がしない。 20041024

丸型の垂直岩から西岳、北ア遠望  20041024

蟻の塔渡り幅30〜50cmくらいの頂稜を渡り歩くか奥社側のフェースを巻いて通過するか?    20041024

剣の刃渡り   20041024

剣の刃渡りを抜け出した辺りから八方睨ピーク 20041024

対面になだらかなシルエットの飯綱山と手前に広がる戸隠スキー場だ。あと一ヶ月もすれば滑れるようになる。   20041024

西岳と左に連なる北アルプスの連山  20041024

西岳と雪を頂いたの北ア白馬岳本峰、小蓮華山 20041024

北アルプス白馬岳本峰、小蓮華山20041024

表山・九頭竜山方面写真右)ちょこっと頭だけ見えている北信五岳のひとつ黒姫山(2,053m)
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Nature of the four seasons/四季の自然

2004 Oct. 30 tama
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